(西森誠人)

    航や柊とかの恋バナ聞いてると、やっぱ恋愛っていいなって思う。でも恋をするのが怖い。
    恋愛に関しては傷ついてばっかだ。瑛里愛のことでもそうだ。
    そして問題はこっち。中3の時の傷は消えない。3年経った今でも全然消えない。


    「まあ、あれはね、さすがに傷しか残んないね」
    航は中学同じだし、あのことに関してはよく相談した1人だ。昔から頼れる友達。小中高と学校同じで、高校では学科も同じ。中学の1年生以外は同じクラスだったしさ。
    「ほんとさ。今はもう全然好きじゃねーのに傷は消えねえんだなって」
    「それほど好きだったってことだよ」
    「まあな。でも新しい恋もしたいなーって」
    「瑛里愛は?」
    「はぁー。何でそこでその名前を出すの」

    瑛里愛とは小学生時代の同級生だ。中学校は違ったけど仲良かったやつで、こいつこそ俺の初恋。成実は小学校違うからこいつのことは知らないだろう。
    当時にはこいつにお世話になりすぎた。航以外にも、和葉とか蓮希とか玲斗とか。
    あとクラスは違ったけど家近い敬也にも世話になったなぁって。あの件では。

    「でも航たち見てると羨ましくなるもんだ」
    「…ごめんななんか。なんか俺らってみんな中3で恋愛経験してるなって」
    「お前もね。あと蓮希もだろ。玲斗…もそうだっけ。和葉だけだよね何もしてねえの」
    「まーね。蓮希も似たような境遇に遭ったからね」



    …俺らが何の話をしてるかっていうと、俺の元カノのこと。

    俺は中3の時同じクラスになった成実のことが好きだった。片想いのままでも良かったんだけど何やら、いとこでもある千穂が部活の時に喋ってたら口すべって成実にも伝わって。

    その次の日にその話題がクラス中に広まったのをきっかけに俺が呼び出して告白して付き合ったんだけど。

    11月だろうか。
    成実と同じ吹奏楽部であり同じクラスの京汰が成実に手を出してそれに成実も応えたと。

    それもすぐに噂になって呼び出したんだけど、
    あまりにも腹たって別れを告げたんだけど。
    あ、そうって感じであっさり別れた。



    「なーんの話してんだー?」
    後ろから蓮希がやってきた。
    今は放課後。たしか同じクラスの沙月は吹奏楽部は部活がないって喜んでた気がする。

    「いやそのさ、中3の時の誠人たちの話」
    航がそう言う。
    「あーあれだ!俺京汰のことぶん殴ったやつだ」
    「んなことあったな」

    そう。その件に対して蓮希はガチ切れしていた。信頼していた京汰が、友達の彼女を取ったんだからって。蓮希は教室で京汰のことぶん殴っていたけど、京汰は公立の桜樺高校の推薦がかかっていたため何も反抗もできなかった。

    「俺も新しい恋したいなーって」
    「蓮希は美穂はもういいんか?」
    「実はもう1度やり直さないかって話になってる」
    「いつの間に。俺は何も。」
    「そりゃあ、あれだとね。」

    むしろこの事ではよく分からないまま終わったから、俺も何も思えない。違う終わり方だったら未練あったりしそうだけど、かなりあっさりしてたから。






    それから数日、夏休みも近づいてる時。

    弟の拓馬が

    「…陽和の姉ちゃん…成実さんが、1回誠人と話したいんだって。」

    と俺に言ってきた。

    「…なんで」
    「俺に聞かれても。本人に聞きな」
    「連絡先持ってねえよ」
    「千穂ちゃんに聞け、だってさ」
    「あー、はい」

    早速、千穂に連絡し、成実の連絡先を教えてもらった。お互い部活が終わったあとの明日の夜に会うことになった。





    成実の家の近くの公園で、夜の8時に待ち合わせ。
    6時半に部活終わるらしくて。互いに全国レベルの部活に入ってるから。俺は西星のソフトテニス部だし成実は桜高の吹奏楽部だし。何せ明日の土曜日はコンクールだっていうからこそこの日がいいと言われた。



    「…久しぶり」

    後ろから成実がやってきた。

    「あれから考えてた。あの時の自分馬鹿だったなって。なんであの時は前の男に心揺られたんだ。今更後悔ってやつだよ。あの時誠人だけを見ることがちゃんとできたら…」
    泣きそうな顔をして語っている。

    「いいよ、そんな」
    「良くないよ!罪悪感しかないもの。全て私が悪い。今更だけど…本当にごめんなさい、あの時は…。」

    俺は何も言えなくなった。
    泣いている彼女はとても綺麗に見えた。

    そんな彼女を抱きしめる。

    「俺はあの日からもう恋なんかしないって決めた。傷は残ったままだ。」

    あの時の傷が未だに消えない俺は、この件を思い出す度に涙が出てくる。もう好きとかじゃなくなったのに、何でなんだろうか。

    「…和葉たちにも聞いたよ。聞く度に心が痛む。何年経っても傷は消えない。その傷を誠人にも私にもにつけたのは自分なのに」

    こいつに会えたら1番聞きたいことがあった。

    「あの時は俺のこと…好きだった?」
    「正直言うと当時はまだ。」
    「…当時はまだ?」

    「失ってから気付いた。やっぱり私が好きなのは誠人だって」

    成実の声がだんだん弱っていく。
    突然のことすぎて頭が回らない。

    「つまりは俺のこと好きだったってことだよね」
    「うん。だから。罪悪感しかなかったの」
    「…なるほどね」

    俺も今初めてこいつの理解した部分が沢山ある。人っていうのは他人の全てを知ることができない。だからお互いにすれ違うことも多いんだ。

    「でも、何がどうであれ、この話は3年前に既に終わった話。今頃付き合ってとかは言えねえけど、最後に成実にキスしたい。今。」

    成実は目を一瞬閉じた後、笑顔で
    「いいよ、」
    と言った。

    さよなら、二度目の恋。

    やっぱり君のことを好きになって良かった。
    後悔なんてするわけないさ。
    こんなにも想ってくれた君が。
    でもその想いに俺も気づかなかった。
    君も俺を失うまで気づかなかった。
    あと1歩違えば、今も幸せな2人だったのだろう。
    でももう終わった話だ。

    新しい恋が、できるといいな。

    俺も、成実も。


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