(富本宗吾)
航も響も柊も、ちゃんと恋愛してるんだな。
柊はもう過去形だけど、青春できるのっていいな。
部活のソフトテニスも辞めちゃったし、高校生活充実したことは響たちとたくさん笑ってバカ言って楽しかったことかな。あとはパソコン関連の検定を沢山とってきた。就職試験も一発合格だったし。
まず俺の人生を大きく変えたのは部活辞めたこと。あれ以来俺自身が変わったっていうか、不真面目になっていったぐらいだ。生徒指導にも呼ばれたことある。自転車乗る時のマナー守ってなかったこととか、制服も乱すようになったし。提出物とか期限までに出してなかったりだとか…。
このままだと下手したら停学になるかもっても言われたことある。ならなかったけど。
「なんか、刺激がほしい」
「ほんとさ。卒業式前に1回ぐらいなんかいいことないかね」
俺の言葉に柊がすぐ反応してきた。
今は柊の家に、俺と柊と誠人と玄太でいる。柊と誠人は元ソフトテニス部で推薦入学して3年間好成績を沢山残してきた2人だ。玄太も推薦入学ではないがソフトテニス部で活躍してきた。商業科のソフトテニス部3年はこの3人だけだから、こいつらしか信用ならねぇんだけど。
「航と響ののろけ話も聞いてられっかよ」
携帯をいじりながら、呆れながら誠人が言う。
「ほんとさね。」
「玄太も恋したいお年頃ですか」
「恋をしたいお年頃だけどお年頃過ぎちゃうよ」
「いいですねぇ…」
「よくねーよ」
玄太の恋バナってよく考えりゃ聞いたことないや。
「青春ね…部活も辞めちゃったしさ」
「宗吾上手かったのにね」
「誠人に言われると嫌味にしか聞こえない」
「なんでさ」
「なんでも。お前のほうが上手いじゃん」
誠人は高体連でも県で上位の成績残しているしさ。
「部活はまあともかく恋愛さ。」
柊が言う。
「柊は碧葉と付き合ってたけどね」
「半年だけどね。そういう誠人は…」
「俺は中3の時だけですー」
「そんなこと言ってたね」
「宗吾はどーよ」
誠人に突然話を振られた。
「別に俺は…」
「…好きな人は?」
「んなもんいねーよ」
さっき、のろけ話聞いてられっかよとかいった誠人だけど、こいつ結構恋バナ好きなんだよな。
この日はとりあえずいろんなことを話した。卒業まであと少し。こいつらとわいわいできる時間は残り少なくなってきている。俺は卒業したらこの地から離れるし。この3人は俺が部活辞めた後でも快く接してくれる。本当に一緒にいて楽しい奴ら。今年の商業科の3年生で良かった。クラスはまあともかく、いい仲間に恵まれた。最近はつくづくそう思う。
人生を左右する出来事があったのは、とうとうやってくる卒業式。…の前の日のこと。
「…宗吾?」
帰り際に、ソフトテニス部のマネージャーだった彩菜がやってきた。
「…うん。俺だよ。」
「久しぶり…だね。」
「俺が部活辞めてから話したっけ」
「…話してないよね。学科も違うし」
彩菜は同じ南が丘中学で、中学では女子ソフトテニス部のキャプテンだった。高校では男子ソフトテニス部のマネージャーになり、俺のことも支えてくれた1人。
「宗吾のことは柊とか誠人とかから聞いてた。部活辞めてからだいぶ変わってったって」
「それは俺も実感ある。」
「まずね、明るくなってったよねって。部活やってたときは悩みばっか抱えてたからあんまり明るくなかったって。プレイ中以外は」
「テニスやってるときは本当に楽しかったからさ」
「テニスやってるときの宗吾は、楽しそうだった…。中学の時から、そんな宗吾を見て好きになっていった…」
彩菜はそう言ってこちらに瞳を向ける。
「だから、私は、…貴方が好きです。」
それは突然の告白だった。
「なに…いきなり」
「ご、ごめんね!なんか…」
「そーじゃなくて。」
告白されるの何気初めてだから、どうしたらいいのかがわからない。
「…返事は後でもいいよ。」
「うん、そーする。」
ここは誰に相談聞くべきか。そう悩んでたら柊から電話が来た。
「宗吾ー?今時間ある?」
「あるけど」
「誠人と航と一緒なんだけど来ない?晃斗帰ったからつまんなくて」
「いいよ。どこで?」
「俺んち」
「了解、今すぐ行く」
丁度いい。恋愛マスターの話も聞くとしよう。
航も中学からかれこれ3、4年ぐらい付き合ってる他校の彼女がいるし、誠人は中学の時彼女いたことあるし、柊はまあご存知の通りだし。
なぜか今年の商業科3年はモテる人多いしさ。
「…て訳でさ」
「お前とうとう告られたんか!イケメンのくせに恋愛したことなかった奴が卒業前日に…」
「航うるせーぞ、」
「ごめん」
まあたしかに今まで周りの恋愛見てるだけだったしさ。
「相手は誰?」
誠人に聞かれる。
「彩菜」
「あー!彩菜か!あいつとうとう…」
柊がわかってたかのように言う。
「なんでそんな知ったような反応」
「彩菜が宗吾のこと好きなの知ってたからさ」
さすがの柊くんです。
「んで?返事はどーすんの?」
航に聞かれた。
「…そこなんだよね」
「お前はどうしたいん」
誠人が言う。
「…どうもこうも…」
「宗吾がまだ気持ち整理してないんだったらまだいいさ。気持ち整理してから言うべきだと思うけどね、俺は。」
「さすが恋愛マスター柊くん」
「うるせーよ航」
…そっか。
でもまあ、俺的には恋愛をしたかった。好きって気持ちを理解したい。まだそこらへんよくわからないけど、だんだん好きになってけばいいのかって。…いや、最初から付き合いたい方に心がいってたのか。まあそんな感じ。
次の日、卒業式が終わって家まで向かってる時。彩菜を見つけた。何気に家近いからしょっちゅう見るんだけどさ。
「宗吾…あの」
「昨日のさ、…ありがとな」
「あ、うん…。…宗吾って就職先県外なんでしょ?柊に聞いた」
「うん。多分、お前にはあんまり会えねえかもな。」
「頑張ってね。私は進学だからさ!保育士の夢叶えたいからさ」
「彩菜も…頑張れよ。」
「ありがと!」
この瞬間の彼女の笑顔がとても綺麗だった。一瞬見入ってた。
「ん?どうかしたの?」
「やー、あの…その…さ、中学ん時から部活でいろいろあった時にさ、いつも支えてくれてありがとなって。今になって部活辞めて後悔してる…しさ。」
「今になって…か。そりゃあるよね。私もマネージャーの道選んだ後にプレイヤーの道に行かなくて後悔したことも多少はあったよ。でも皆と一緒に楽しい部活にできたからさ。…ってこんなこと宗吾の前で言うのもなんか変か、ごめんね」
「いやそれは関係ないよ。…あとさ、その…告白の返事…」
話を戻すと彩菜は我に帰ったかのように表情を変える。
「あ、うん、…で?」
「付き合っても…いい…かなって。」
「なにその曖昧な答え!でも安心したわ!でもなんで?」
彼女は一瞬で笑顔に還る。ホッとしたんだろうか。
1晩考えてたこと、柊たちに言われたことを全て言った。それでも受け入れてくれた。1からやっていこうって。
…ありがとな。
「あ、ねえ、せっかくだしさ、南公園でテニスしない?」
「ちょ、え?俺部活辞めてから体育ぐらいでしかやってねーけど」
「いーじゃん!1回対戦してみたかったから!私も中学以来あんまりやってないからさ」
「まあいっか」
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