(野村康斗)
周りの人は恋愛をしてる人が多いな、とつくづく思う。兄ちゃんも去年に彼女と復縁してるし、中学の時からお世話になってる詩音先輩も彼女いる。
いや、俺は恋愛してない訳じゃない。好きな人はいるんだ。言えない、会わないまま年は過ぎる、だからといって他にも好きになれるような人はいない。知ってるのは一部だけだし、俺もこのままでいいやって思えてきたのもある。
高校に入学して1年がたち、2年生へと進級した。進路が決まらないままの1年はあっという間。進学はするが、大学に進学するか音楽の学校に行くかのどちらかで迷っている。
高校入るまで何の目標もなかった兄ちゃんは音楽の道に進み、北都音大に入学した。
この日は先生方の会議で部活が1年でも数少ない休み。せっかくだから中学校の部活に遊びに行くことにした。…そこで会ったのが
「あれ〜、康斗じゃん!」
と、明るい声で話しかけてきた…零里だ。
彼女こそずっと片想いしてる相手だ。
「…いきなりなんだよ、びっくりした。そもそも何でいるの?」
「部活オフだったからね〜!暇だし学校終わってすぐ来たよ」
そういえば西星の制服を来ている。零里の制服姿は中々見ないから新鮮。西星は本番用の衣装があるから、そこで零里に会ってるし、そちらの印象のほうが強い。
今年の第二中のコンクールは、課題曲はⅠで自由曲は「交響曲第3番」だ。部員も前に比べれば人減ったよな、と思う。新1年生は俺らの時より10人ほど少ないらしい。初心者の人はロングトーンを頑張っている。俺は小学生の時に始めた頃のことを思い出す。
零里は俺と同じ時期にトランペットを始めた。零里のほうが吹奏楽歴は1年だけ長い。最初の1年はホルンを吹いていた。
合奏を聴き、後輩と話した後に、顧問の先生に職員室に呼ばれる。
「2人は、進路はどうなんだ?」
と聞かれる。
「私は就職したいなぁと…」
と零里は言う。
「なるほどね。康斗は?」
「え…っと…」
この場合って、迷ってると言った方がいいのか
「商業を学び続けるか、音楽の道に進むかで迷っています。」
俺はそう答えた。
「2人なら、将来音楽の道に進めると思うんだ。全国大会で素晴らしいソロを吹ききった。高校でも活躍している。そんな2人だからこそ。」
そう言われて、東明音楽専門学校、というところのパンフレットを出される。毎年全国各地から様々な人が入学するとの噂だ
「ここ。貴方たちの身近な人では…京汰が今年入学した学校だ。学校の詳しいことは京汰に聞くべきだけどな」
京汰先輩は音楽の道に進んだのか。確かにあの先輩は中学時代から進路に迷っていた。通っていた桜樺高校も入りたくて入ったわけじゃないと言っていた。そして成績のとても良い先輩は高校の先生には国公立大学への進学を勧められていたみたいだ。先輩は自分のやりたいことを選んだ、ということになるのか。
「「ありがとうございました!」」
そう言って職員室を出た。
「音楽の道か……それもいいかもしれないね」
「うん。」
零里は西星でも2ndトランペッターとして活躍している。中学の時は1stと2ndを交互にしていたが、零里の音はとても美しい。ハーモニーも綺麗。俺もこいつが一番合わせやすかった。
「東明を志望してる先輩は2人いるんだよね。同じパートにも1人いる。その先輩も中央中でバリバリ吹いてた人だから、音も良いし。」
「ああ、やす先輩が言ってた人か」
「そーいえばそうだ。」
入れ違いなはずだけど割とトランペットパートの俺らに気さくに話しかけてくれていたやす先輩も西星の人だ。俺が中3の時にやす先輩と話した時、「西星のトランペットに凄いの入ったよ。女子なのにバリバリ吹く。」って言っていた。
「音楽の道に進むんだったら、東明かな。でも他にもどんなところがあるのか気になる!」
零里のやる気はたっぷりだ。
「俺も。」
その日以来、零里とは進路関係で連絡を取ることが増えた。こうやってまた関われることに嬉しいが、やはりそれで満足している一面もある。だから俺はこうなるんだよ。
詩音先輩に「最近笑顔が増えたな」とも言われた。詩音先輩もたしか俺が零里のこと好きだってこと知っている。それを話すと、「恋の力ってやっぱりすごいね」と返される。
いやいや、貴方程ではないですけど。
「告白したら、もっと楽しいことはあるんじゃない?付き合えるかもしれないよ?」
「や、いや、あの…」
「片想いのまま終わらせるなんて勿体ない。しかもお前ら何年一緒に同じ楽器吹いてたの。ましてや進路の情報交換してんだろ?なら…」
「いや、俺には…」
「弱音は吐かない!お前男だろ!!」
先輩に完璧に火がついた。いつだかと変わんねえな。何だかんだ世話になってる先輩だし、全く楽器は違うけど演奏者としても尊敬もできる。中学の時は碧葉先輩と、今はバスケ部の人と付き合ってるみたいだし、俺の知ってる中では一番恋愛経験ありそうな人だ。
「そうして前に進むからこそ、いいことあるんじゃないの?お前なら絶対いけると思うけど」
「絶対って……」
「俺も中学で碧葉に告白した時、蓮希先輩…お前の兄ちゃんに同じこと言われたから。だから今度は康斗の番!」
…兄ちゃんでしたか。
まあいいや。少しは勇気を持てた。はず。
それから2ヶ月がたったある日。丁度、東明音楽専門学校の選抜メンバーが地方演奏会として桜市に来ていた。2日目は東商の吹奏楽部全員で行くが、1日目は俺と零里で行けることになった。兄ちゃんが京汰先輩からチケットをとってくれたお陰で。
演奏は素晴らし過ぎた。迫力のある。そして美しい。音のメリハリも素晴らしい。何と言っても最初のトランペットのファンファーレは圧巻だった。
俺も、零里も、ここに進学すると決めた瞬間だった。
「これはもう東明目指すしかないよね」
「本当にな。俺も東明行きたい」
「じゃあ2人で目指す?」
「…そうするか!」
そこで握手をする。
「…あとさ」
俺は零里の腕を掴み、自分でもわかるぐらい急激に声のトーンが下がった。言おうとすると急激に緊張感が増している。
「俺、中学の時から零里のこと好きなんだ」
なんとか、言えた。
零里はびっくりして固まっている。
「んな、固まるなって」
「いや、びっくりしすぎて固まるわ。康斗恋愛興味なさそうだったのに…」
「あ?馬鹿にしてんの?」
「してないです!してないですってば!!…私も昔から康斗のこと好きだったのに…。結構色んな人に話してるのに康斗には何にも気づかれないからさ…」
ちょっと待て。それって結局俺と同じことしてるじゃん。じゃあ前の詩音先輩の言葉って……
「まさかここで告られるとは思わなかったし、私から告る予定だったのになー!」
なんて言われて叩かれる。まさか告白がお互いこんないつも通りのテンションだとは思わなかった。
「付き合ってください…それだけは言わせてよね!」
「わかったわかった。」
「返事は1回って部活でも散々…」
「本気だから大丈夫。」
ここで笑い合う。やっぱり普段通りが一番だ。
「でも、付き合うとはいえ、高校生のうちはライバルだからね。」
「そうだな。編成が違うコンクール以外は」
「アンコンにソロコンもあるし」
「去年のアンコンは東商の金管の勝ちだけどな」
「次は絶対負けないから!」
昔からいつでも傍にいてくれる君。
中学時代の仲間として。今現在のライバルとして。
そして、彼女として。
零里のことを大切にしていきたい。
心から誓った。
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