(鈴木晃斗)




    俺には罪は大きい。俺が全て彼から取ったんだから。



    4ヶ月ほど付き合ってた同じクラスの優恵と別れてから3ヶ月がたとうとしている。そして高校入学してから1年がたった。昨年お世話になった上級生は卒業し、そして後輩が入学してきた。

    1年って早い。何も言えずに、何も出来ずに過ぎてゆくんだから。





    誠人。君には言わなきゃいけないことがある。







    そんなことでもやもやしたまま、俺はいとこの柊生と会う。柊生は今年桜高に、吹奏楽部の部活推薦で入学した。小学生時代は誠人や瑛里愛と同じで、瑛里愛とは同じスクールバンドに入っていたのもあり、このこと全て知ってる数少ない人だ。


    「馬鹿だね〜あっきーも」
    呆れながら言われる。

    「だからあっきーって呼ぶのはやめろ」
    「いいじゃん?それよりも早く言わねえからこうなるんだよ」
    「別に誠人は瑛里愛のこと話そうとしないし、このままでもいいんだけどね…」

    そうなんだ。誠人は高校入ってから自分から瑛里愛の話題は出さない。だからとはいえ瑛里愛と俺が

    …付き合っていた

    この事実は誠人本人はまだ知らない。

    たまに航などが瑛里愛の名前を出すけど、果たして航はこのことを知っているのか。




    「そーいえばあっきーは別れてから瑛里愛先輩とは会ってるの?」
    「会ってねーよ」
    「会ってみたら??たまにはさ」

    2年半も連絡を取ってない、瑛里愛の連絡先を見る。
    この連絡先は変わっていないのかな。






    その日の夜、電話をかけてみる。

    電話は… 繋がった。






    「ねえ、晃斗だよね…?」
    ちゃんと、彼女の声だ。
    心の中で少し感動してしまい、しばらく黙ってしまった。

    「ねえ、返事し」「そうだよ」

    彼女の声を遮るように返事をする。


    「会いたい」
    「今から?」
    「うん」

    現在時刻、20時。
    まだまだ時間はある。

    両親は共働きで週末は夜遅くまでいないし。いっか。

    「俺んち来て。お前の家まで迎えに行くから」

    そう言って俺は電話を切った。







    懐かしい、でも変わってない風景。
    久しぶりに通るこの道はとても素敵だ。


    「来たよ」

    瑛里愛の家のインターホンを鳴らす。

    「本当に来たのね」
    そう言われてドアが開く。



    歩きながら、色んな話をした。
    部活のこと、高校のこと。
    瑛里愛は小学生時代から吹奏楽部に入っていて、パーカッション…打楽器をやっている。小4まではトランペットだったが、人数の関係で変わったみたい。
    そして東商の情報処理科だという。航が受けて落ちたところだっけ。航の名前を出したら、「航!懐かしい!」と、過去の航の話までしてくれた。なんか、昔はぜんぜん勉強出来なかったみたい。

    「でさ、航にはさ、言っておいたほうがいいのかな」
    「何を?」
    「俺らが付き合ってたこと」

    問題はそこだ。

    「いいんじゃない、航なら。」
    「…誠人は?」
    「…なんで」
    「同じ商業科なんだよ。」

    瑛里愛は唖然とする。

    その後、瑛里愛は俺の袖を掴み、腕に顔をくっつける。
    「お願いだから誠人にはバレるまで言わないで」
    「わかってるよ」

    俺は瑛里愛の頭を撫でた。



    そうこうしていると、家に着く。


    手を繋ぎながら、家の階段に登り俺の部屋へ向かう。
    なんだか、懐かしい感覚。

    「今なら甘えていいよ。応えるから。」
    部屋に入り、俺はそう言うと早速くっついてきた。


    しばらくくっついていたがそれはだんだんキスに変わっていく。

    久しぶりの感触。君の隣にいるのはやはりとても気持ちの良い。さすが、自ら惚れた人だ。俺の虜にしてしまう。



    この日はずっと触れていた。あの頃のことを思い出す。なぜに簡単に手放せることができたんだろうか。今では有り得ない。


    「やっぱ好きなのは瑛里愛だ…」
    俺がそう言いながら深いキスをする。

    「私も。久しぶりなのに、すっごい落ち着く。また晃斗に触れていたい」
    「可愛いこと言うじゃん、お前、俺以外に付き合ったことは」
    「ないよ。晃斗は」
    「あるよ。中3と、高1。」

    まあ、どちらも3ヶ月もたないで終わったが。
    優恵に関しては、俺が一方的に振っただけだし。

    やはり本当に恋心があるのは瑛里愛だけだ。瑛里愛も、俺のこと好きでいてくれている。

    …だが、きっと瑛里愛の前にもう一度誠人が現れたら、それは一転するだろう。前の好きな人のことを想うのは、簡単とも言えるしな。俺だってそうだ。瑛里愛のこと。





    この日はこれで行為を終わらせたが、別の日に会うとそれ以上になっていく。ついには性行為。でも互いに受け入れられる存在だからこそ。これが1年半も続くとは、思いもしなかった。








    そして、いい加減、航には説明しないといけない。

    共通の知り合いでよく話せるのは航しかいないから、話したほうが俺自身も楽になるだろう。



    話すと、航も最初はびっくりしていたが、受け入れて話も聞いてくれた。やっぱりこいつはいい奴だ。さすがモテるだけあるし、こいつみたいな奴が彼女とも長く続くんだな。



    「誠人は他人には前向き思考な発言してるくせに、自分のことになると後ずさりしちゃうから、誠人が気づくかそれか瑛里愛の話を自分からするようになってから言った方がいいんじゃないか」

    「そうだよね。」

    「そして瑛里愛もそう言ったんなら尚更。誠人には悪い隠し事だけど、しょうがない。」


    でも、いつ気づかれても、俺と瑛里愛は別れているのに行為をしている、という事実は変わらないどころか、止められない。



    何もかも、全ては俺が悪い。
    直接ではないが、誠人から瑛里愛をとったような立場だから。そのくせして自分がやっている行動も全て、誠人に対しては非常に悪いことだから。
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