(富本宗吾)

    なんでこんな性格悪い先輩と同じ高校に来たんだろ。中学であんな目に遭ってるのに。
    ソフトテニスは好きだ。試合中は本気になれるし嫌なことも忘れられる。二つ上の先輩や同級生はいいメンバーばっかりだし、多分それがなかったら1日で辞めてたんだろうな。

    「宗吾もメンタル強いね。中学の時もさ」
    マネージャーの彩菜に言われた。
    「好きなことは辞めたくないからさ」

    できる限り部活は辞めたくなかった。
    柊とか誠人とか、支えてくれる人も沢山いる。
    彩菜もその中の1人。中学から同じで中学の時のこともよく知ってるからね。

    中学入る前に引っ越して、本来は南聖中に通うはずが南が丘中に通うことになった。南聖のほうがテニス部は強いけど、南が丘もテニス部はあるし、柊と別のチームで試合してみたいっていうのもあったのかもしれない。


    入って早々はまだ良かったんだけど、中1の夏の話だろうか。

    「宗吾って性格キモくね?」
    「ほんとさー。女子たちもどこがいいんだろうねー」

    発端は1つ上の先輩だった。あまり関わりがない人だったがその日以来だんだんひどいものになっていく。それが学校中に広まった。





    三年生の引退まではまだその程度だったんだけど、それからだ。
    ここ2ヶ月ちょっとぐらい。
    本格的ないじめになっている。
    言葉で説明しちゃきりないぐらい今まで何やらされている。

    この事を知ってる1年生は彩菜と商業科1年の部員ぐらい。でもこれをバラしたらどうなることやら。それが怖くて何も言えない。
    商業科にいて女子のいじめや喧嘩も怖いなって思うけど、男子も男子で酷すぎると思う。俺は試合中が楽しければいいし、誠人たちもいるからいいんだけど、でもやっぱり辛いものだ。

    他の先輩とかは見て見ぬフリとか。顧問の先生まで知れ渡っていないから続いている。顧問の先生は生徒指導部の先生でもあるからバレたら部活自体がどうなることか。ましてや西星のソフトテニス部は全国常連校。ここで問題を起こしたら西星高校の名に恥をかけてしまうことになる。








    12月の初めの部活。
    この日は本当に部活を辞める決心をした日。

    「宗吾!!!」
    英検の補習で放課後に居残りしてたら、慌てて玄太がやってきた。

    「今すぐ来い。大変なことになってる」
    「…大変なことって?」
    「沼澤コーチにバレた。先輩とお前のこと」
    …とうとうこの日が来たか。
    コーチにバレたら当然顧問のほうにもバレるってことだ。

    「さっき2年生とコーチだけでミーティングしてて、何も知らずに部室入ろうとした義晴と柊が話聞こえてたんだって。」
    「今もやってる?」
    「多分。俺まだ言ってないから分かんないけど一応行ったほうがいい」
    「らじゃ。」

    玄太と一緒に急いで部室に行った。

    その場にいた1年生数人と一緒に部室に入ると、コーチが俺のことを呼んだ。

    「宗吾はどんな気持ちだ」
    コーチが俺の目の前にやってきた。

    「別に俺は特に…。」
    「でもいじめ受けてたんだろ?」
    「そーですけど…複雑すぎて答えられません」
    「それほど追い詰められてたってことだな」
    「…はい」

    話を聞いてたマネージャーの詩央先輩が俺の前に来た。

    「浦元と小野寺以外にも、いじめを見て見ぬふりしていた2年生皆が悪い。本当にごめんなさい」

    「今日の部活はなくなった。というか今日は停部になった。試合も迫ってきてるしもうこんなことしてる時間はないんだ。」

    コーチはそう言って出ていった。
    その後を応用にほかの部員が部室を去っていく。

    残ったのは先輩2人と、1年生数人だけ。

    口を開いたのは彩菜だった。

    「何を目的で宗吾のこといじめてたんですか?中学の時からずっと」

    「…俺が団体のメンバー外れた時だ。」
    浦元先輩はそう答える。

    「変な噂流したのも先輩たち。いじめたのも先輩たち。何年し続けても気が済まなかったんですか?宗吾はこの4年間どんな気持ちで過ごしてきたか分かります?」
    彩菜は完璧にキレてる。

    その横で小野寺先輩が大声で俺に向かって言った。

    「何をされても富本だけは許せない。なんで俺もお前も西星に来たんだ。お前さえいなけりゃ!!!お前がいるからこんなにも思い通りにいかねえんだ!!さっさと俺の前から消えろ!!!」


    この一言で俺はある決心をした。
    何が何でも、この言葉で。





    先輩たちが帰った後、残りは1年生の1部…彩菜と義晴と玄太と柊だけになった。

    「俺、部活辞める」
    皆に言った。
    「…別にさっきのことは気にすることじゃ…」
    柊が止める。

    「前々から悩んでた。でもさっきので決心した。…明日先生のとこ言って退部するって言ってくる。…今までありがとう。」
    そう言い残して部室を出た。

    「宗吾!」
    義晴が大声で俺のことを呼んでるが、あえてスルーした。

    ごめんな、皆。
    今まで、ありがとう。







    「…話は沼澤コーチに聞いてる。お前の決断なら俺は口出ししないけど富本自身は辞めて後悔しない?」
    次の日、退部のことを話に行くと先生に言われる。

    「はい。自分で決めたことです。今までありがとうございました。」
    「わかった。ご苦労さんだった。」

    そう言われて俺は職員室を出た。

    「本当に、辞めたんだ」
    玄太がやってきた。
    「うん。本当にごめんな。玄太には世話になってばっかだった」
    「それは全然いいよ。でも宗吾が部活を辞めるのが一番嫌だな」
    「ありがと。でももう辞めたから、今日からは部活には行かない。」
    「…だよな。」
    「部活推薦だったら辞めれなかったかなって。」
    「あれ、宗吾推薦じゃないんだ」
    「最初部活続ける気なかったし。」

    西星でソフトテニス部に入るきっかけというのはこいつらだ。元々仲の良かった柊をはじめ、玄太や誠人などと親しくなり、一緒に部活入ろうと言われて入った。部活入っていたことには後悔してない。むしろ楽しかった。
    他にもマネージャーの彩菜とか小学校同じの義晴とか、支えてくれた人はいっぱいいた。

    こいつらには感謝しかない。
    そしてこれからの大会も頑張って欲しい。

    部活にいて、俺はあまりいい結果残せてないまま退部するけど、他の人たちにはいい結果を残して欲しい。目標である全国大会での団体優勝。達成してほしい。俺は部活を辞めてからも陰ながらソフトテニス部を応援するよ。



    俺の部活人生はここで、幕を閉じた。



    スポンサードリンク


    この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
    コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
    また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。