(小倉詩音)


    別れて以来君のことは見なかった。
    彼女は自ら俺と別れることを決意した
    でもなんで彼女は別れを決意したのか
    そこがまだわからない。

    1ヶ月ぐらい前から俺にも彼女はいるが、やはりそこがモヤモヤしたまま。



    「あいつもお前も、中途半端なことしてるよな」
    巧にそう言われる。

    「そう?」
    「だってあいつ晟一といろいろあったみたいだよ。お前と別れてから」
    「巧、よく知ってんな」
    「噂好きな先輩がいるんだよ、西星の吹奏楽部には」

    こいつ、今井巧は同じ中学で吹奏楽部だった。巧は中学からクラリネットを始めたがとても上手くて評判で、西星にも部活動推薦で入った。碧葉も西星の吹奏楽部だから、こいつのところに話はたくさん入ってくると。

    晟一とは碧葉の幼馴染みの男子。俺も何でか昔から知ってる。晟一は昔から碧葉のことが好きだ。すぐ女子にべたべた触る人で、正直女関係してるとこいつのことは好きじゃない。



    「いいこと教えてあげる。」
    「なに」
    「詩音さ、今度のウインターで選抜メンバー演奏出るんだろ?」
    「出るけど…」
    「碧葉いるから。あ、ついでに蓮希先輩もいるし、和葉先輩が言うには紗英先輩もいるみたい」

    …まじですか。
    これって桜高で行われる合同練習が来週から入るはず。
    蓮希先輩と紗英先輩はともかく…。

    そしてクリスマスの日はアンコンだ。まさか第二組曲のメンバーが全員揃うとは。っていうところだ。こうなれば西星には負けたくない。














    とうとう合同練習の日になってしまった。

    バスで桜高まで移動し、東商は3番目についた。先に南高と白商が着いていた。

    「パートごとに集まってもらうので、先にパート練習場所へ移動してくださーい!」
    和葉先輩たちが誘導している。

    パーカッションは音楽室だ。

    「桜樺高校さんからはパーカッションいないんで、あとは西星高校さん2人が着いたらパート決めしたいので、何のパートをやりたいか決めててください」
    桜高の紗英先輩が言う。
    昔からリーダーシップがあるお方だ。

    俺は…鍵盤以外ならなんでもいいや。
    鍵盤は苦手というか、ビブラフォンやマリンバは好きだけど、シロフォンとグロッケンは苦手だなぁ。碧葉はマリンバとグロッケンが好きで、よくマリンバの取り合いしてたのもいい思い出だ。



    「西星高校さんがつきましたー」
    紗英先輩が言う。




    「…え、詩音…?」
    やはり、碧葉はいた。

    「え、詩音もいんの?」
    横から蓮希先輩も入ってくる。

    「お久しぶりです、蓮希先輩。
    …そして久しぶり、碧葉。」
    俺がそう言うと、ふたりは頷く。




    曲は「フニクリフニクラ狂詩曲」。
    様々なCMで使われていて有名な曲だ。

    パート決めでは、俺はスネア担当になった。蓮希先輩はシンバル、碧葉は得意のグロッケン、紗英先輩はバスドラム。

    「じゃあパート確認するね。
    ティンパニ、南高2年 下川寿葉
    スネア、東商1年 小倉詩音
    シンバル、西星2年 野村蓮希
    グロッケン、西星1年 市森碧葉
    シロフォン、桜高2年 河野舞
    ビブラフォン&マリンバ、桜高1年 池田晴香
    チャイム、南高2年 落合怜央奈
    タンバリン、白商1年 重森百菜
    サスシン&wip、桜高2年 西村友梨
    タムタム&トライアングル、白商2年 福井大輔

    そしてバスドラムが私、桜高2年 星野紗英。
    みんなあってる?」

    「「はい」」
    全員が返事をし、紗英先輩が発言。

    「それじゃあ今日はパートの交流と練習だけで終わりだから、合奏は来週の日曜日。アンコンが終わった後ね。本番は1月の31日。期間はまだまだあるわ。頑張ろう!」

    全員が一斉に返事をする。





    パートの練習と交流をいっぱいして、今日の練習は終了。

    「なーんかさ、このメンバー楽しいな」
    「ほんとさ」
    「ずっと練習してたいですよね」
    このように、男子3人も一致しまして。
    白商の大輔先輩は元第一中の人みたい。蓮希先輩も塾同じだったみたいだし、小学生時代は碧葉と同じパートだったみたい。美紅先輩と付き合ったことがあるらしい大輔先輩は、晟一とも親しいみたいだから当然、あの事も知ってる。


    「…詩音、どうする?」
    片付けが終わった直後、蓮希先輩が話しかけてくる。話は巧から聞いた…というか、俺が教えてと言ったからだ。

    「どうって…あ、ああ。」
    俺もその事を忘れていた。
    「西星は現地解散なんだけどお前らは?」
    「現地解散です。」
    「じゃあ一緒に帰れよな。碧葉と」
    「あー、はい…」

    蓮希先輩に背中を押された後、先輩はそれを碧葉に話しに行く。そして碧葉は俺のところへ。






    「なんか、久しぶり、こうやって2人で並んで歩くの」
    「そりゃあな。」

    別れてからまともに話すのもはじめてだ。

    「…なんで碧葉はあの時、俺と別れようって言ったの?」
    今までずっともやもやしてたことだ。
    聞くのも怖かった。
    でも聞くしかない。

    「…詩音のことは好きだったよ。振った直後は未練ありすぎて、後悔してた。でも今となりゃいい答えだった。そしてあの時さ、お互いにさ、新しいこと見つけようって、言ったじゃん?覚えてる?」
    「ああ、覚えてる」
    「それだよ。」

    まさか、これが理由だったとは。

    「晟一が関わってるとも聞いたけど?」
    「あ、ああ…。相談してもらって以来かな。べたべた触るようになって、最近ちょっと…」
    「いいよ誤魔化さんくても。全部知ってる」

    俺が巧から聞いたことは、「碧葉と晟一はセフレだ」とのこと。あくまでも巧が聞いたのは学校で流れてる噂と先輩の話だと言ってた。晟一も碧葉も西星では全域に知られる存在だから。でも俺も美紅先輩から聞いてるし。

    「なんで知ってるの?」
    「美紅先輩や巧から聞いた。」
    「美紅ちゃんはともかくなんで巧?」
    「噂好きの先輩から聞いたんだって。で、碧葉以外に西星いったの巧だけだから俺らのことも質問攻めされたんだって」

    そう言うと碧葉は納得する。


    「まあもう、終わった話だから、お互い気持ちよくいこう?!ね?!」
    碧葉は笑顔で言ってくる。

    「そーだな。俺も今の恋頑張るしか」
    「え?彼女いるの?」
    「ふっふーん。実はいるんだ」
    「きも。」
    「お前も早く彼氏できたらな」
    「いつの話になるんだろーね。今が今だし」
    「すぐできるって、頑張れば」

    ははは、と笑う。

    中学の頃みたいに、普通に話すことができて嬉しい。
    当時のことを思い出す。でも、もうあの日々には戻らない
    俺も、今を精一杯、楽しむか…。

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