(野村蓮希)


    部長というのは何から何まで自分でやらないといけないもの。部の失敗は全て責任は部長に回ってくる。
    西星の吹奏楽部はゆるいところもあり、演奏面以外では本当に何度言ってもだらしなさが目立っている。

    全ては今年の3年が緩いからだ。


    まだ玲二先輩が部長をやっていたときは…いや、その時からゆるくなりかけていたけど、本格的にこうなったのは俺が部長になってから。

    結局何度言っても直らないし先生には何度も注意されるし。








    「蓮希先輩、これ、2年でミーティングした内容です。」

    部活はじまる前、2年の学年代表である響哉から渡された。昨日、俺と陸人で「このままじゃだめだ」と話してて、話に参加してた響哉と碧葉が「まずは、2年でミーティングしてみます。」と俺らに言った。今日は特進科以外の2年が午前授業だったらしいから、部活前のあいてる時間にでも話し合ったのだろう。2年はしっかりしてる人がいて本当にありがたい。

    早速、見てみた。


    ・最近緩くなってる原因→3年とは限らない。2年も2年で遅刻多いし、みんな一緒になって自分に甘い。それを見てる1年も真似してきてると思う。
    ・一人一人注意していかないと部活はよりダメになる。1年と3年の柱となる2年がしっかりしてないと部活は成り立たない。


    …など、いろいろ書いていた。
    たしかに2年でも3年と一緒になってる奴はいるけどな。





    この日の部活は、航平先輩が部活に遊びにきていた。遊びにきていたっていうか、北都音大のこととか聞きたかったから。
    3つぐらい音大のオープンキャンパスに行ったが、一番いいなと思ったのは航平先輩もいる北都音大の吹奏楽打楽器コース。

    先輩は碧葉が持っていた紙を取った。
    「なんだこれ、ミーティング?」
    「そうです。」
    「んー、なるほどな、部活を良くするため?」
    「まーそんな感じです。詳しくは蓮希先輩に聞いてくださいね、」

    碧葉はそう言って基礎打ちをしに練習室へいった。



    「まー、去年からの現状見てればな。蓮希たちって支部大会いったことあるっけ。高校で」
    「全国行った冬のアンコンだけっすね。座奏やマーチングはないです。航平先輩たしかマーチングいきましたよね、」
    「あー全国もいった。俺が1年の時だけな。 あの時の3年ほんとすごかったからな」
    「あー、たしか香取先輩たちの代でしたっけ。」
    「そーそー。香取先輩ほんとすごかったから。部長としてもプレイヤーとしても。ドラムメジャーもこなしてたし。てか蓮希知ってたんだ」
    「あの先輩は二中の人だったんで中学でも有名でしたよー。二中の伝説の打楽器奏者って顧問も言ってたんで。」

    航平先輩の2つ上にあたる、香取先輩は第二中、そして西星の国際科のOBでもある。俺が中学生になった時にはもう先輩は高校生で、直接教わることはなかったけど会ったこともあるし、中学の顧問の先生もよく話題に出してたほど素晴らしい女の先輩。今は東京の音大にいるらしい。


    「てかこれ今年のコンクール?」

    航平先輩は小物台の近くの譜面台に置いてあった楽譜をとる。

    「あー、はい。」
    「「シバの女王 ベルキス」かー。この曲たしか20年かそれくらい前に西星が1回だけ全国行った時の曲だったよーな。」
    「あー、そうっすよね。やるのはⅠとⅣなんすけど。課題曲はまだ決まってないですよー。でもⅠかもしれないです」
    「そっか。てか俺この曲やってみたかったんだよなー」

    そう言って楽譜を見てやりはじめた先輩。



    「パート譜もエスカペイドに比べたらあるほうなんだな。」
    「去年エスカペイドは4人で足りて碧葉がピアノ弾いてたんでしたっけ」
    「そーだったな。んで今年のパーカッションも6人か。パーカスって基本5人いれば、成り立つから。まー…。福地も上手いしな」


    ちなみに言うと、パーカッションの1年の福地は、中央中出身で、航平先輩も知ってる。





    この日の合奏は、野球応援の合奏だった。西星野球部は県大会に進むことになり、全校応援になる。
    野球応援ではバスドラムを叩く。去年のバスドラムは航平先輩がやっていた。合奏前、航平先輩はバスドラムのマレットを持ち、話し始めた。

    「野球応援なつかしーなー。俺去年の野球応援で集中できてなくてこっ酷く怒られた記憶しかないや」
    そう、先輩は語る。
    「こういう時ってバスドラムは指揮者みたいなもんですからね。ましてや全校応援…」
    「1回戦ってたしか南だよね?あそこの吹奏楽部はパーカッションに力入ってるからな。」
    「あー、南のパーカッションはすごいっすよね。中学の後輩もいるんすけど」
    「大学の奴に南だった人、オーボエだけどいるんだよね。南の野球応援は管楽器の人もパーカッションやってたみたいだし、バスとスネアに人いれてるんだって。」
    「通りで、野球応援の時だけパーカッション多いなって思いましたよー」
    「まーな。蓮希の場合はバスドラム叩いてると少しずつテンポ遅れていっちゃうからそこ気をつけないとな。」
    「はい。」






    合奏が終わり、部活が終わり、下校の時。

    「ねー、みんなさ、これから暇?」
    先輩はパーカッションパートに呼びかける。

    「俺は大丈夫です」
    「俺も…」
    「私も暇です!」
    「俺も大丈夫ですけど、どうしたんですか?」

    「まあ、俺についてきて。」

    そういわれて4人で付いて行ったら、ミュージックホールについた。ミュージックホールは星華中の近くにあるため、すぐ付いた。

    「北都音大には吹奏楽コースは4つのクラスにわかれてるんだ。マーチングクラス、座奏クラス、選抜クラス、総合クラスって。俺は総合クラスなんだけど、今日これからここで総合クラスの一年生で合奏やるんだ。蓮希は北都音大志望みたいだしみんなにも見て欲しかったから。みんなごめんね、いきなり」
    「いえ、むしろ光栄です!!」
    かなりテンションが上がってる泰輝。






    この曲は、去年の課題曲のⅠ、「天空の旅」だ。去年俺らがコンクールで演奏した。航平先輩は変わらずパーカッション2ndをやっている。

    迫力もあるけど音質も綺麗。さすが音大、とも思うけど何よりも感動した。これが本来求める音。




    演奏が終わり、盛大な拍手を送った。


    「こうちゃんの後輩??西星だっけ。」
    「そー。西星。こいつが前にオーキャン来てた蓮希。」
    「こんばんは…!」
    相手はとても美人な女の人だった。トロンボーンを持っている。

    「蓮希君って第二中だった子でしょ。二中だった子が言ってた。紗英ちゃんとか和葉とか舞花ちゃんとか…」
    「もしかして、桜高…?」
    「そう。ちなみに私、こうちゃんとは中学同じで中央だったよ」

    うまいなーっ思ってたら、桜高の人だったのか。桜高のトロンボーンのサウンドはいい音してるんだよな、昔から。



    それから一時間ほど。演奏きいたり演奏させてもらったり、とてもいい経験をした。






    「今日のこと生かして演奏も部活も良くしたいよな」
    陽哉が俺たちにそう言った。

    「だな。」
    「うん。蓮希は北都音大志望って言ってたしいい経験になったよな。俺は就職だけど卒業しても吹奏楽続ける気になった。やっぱ高校生とは全然違うや。」
    「うん。違うよな。」


    「経験は大事。いろんなところの話聞くと西星の吹奏楽部は演奏機会が多い。今年こそ県大突破目指して頑張れよ、お前ら。」

    航平先輩にそう言われて、この日は解散。



    この後部活が良くなったかどうかはまだちゃんと答えられないけど、パーカッションパートだけでも変わった実感はある。ありがとうございます、先輩。





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