(高松一真)




    机の上には、部活の入部届け。
    昨晩、俺が寝るころにはまだ親は仕事から帰ってこなかった。
    だから置いておいたんだ。
    「署名しといて」という置手紙つきで。

    でもこの紙にはまだ親の署名は書かれていない。


    「ねえ母さん、なんで入部届けに署名してくれないの」

    朝、俺は母さんにそう言った。
    そしたら母さんは怒った。

    「一真、いい加減バスケなんてやめなさい。桜高のバスケ部は結構厳しくて強いんだって中村さんの親も言ってたわよ。入るなら吹奏楽部以外の文化部にしなさい。家のことに勉強にやることいっぱいあるでしょ」

    母さんはそう言って家を出た。


    …なんなんだよ。

    俺の親は父親は出張が多く、母親も夜遅くまで仕事している。一人っ子の俺は家事をすることが多い。それに勉強だって大事。
    やることは多いけど中学の時だってこなせたんだし。



    朝、中学で同じバスケ部だった浩紀に会った。

    「おー、一真、入部届け今日出す?」
    「…親に反対されちゃったよ。あはは」
    「は?え?どうした?何があった?」
    「家のことと勉強を優先させられた。部活入るなら吹部以外の文化部にしなって」
    「…まぁ、入部届けはあさってまでに出せばいいんだし、親説得させればいいと思うよ。」
    「そうだな」


    この日は入部届けをもう出してる人は練習に参加できるらしく、俺は1人で黙って下校しようとした。





    ちらっと体育館を見てから。




    帰ろうとした時に、昔からの知り合いの直哉と宙夢先輩につかまった。


    「ん?一真じゃん。お前バスケ部入んねえの?」
    「入りたいけど…親に反対された。」
    「は?え、なんで?」
    直哉がそういうと宙夢先輩が俺のかわりに答えた。

    「そっか一真んち、共働きだからな。一真の親とか部活来たことないよな」
    「そうですよー…。」
    「多分このまま親を説得しても絶対反対されるだろーしさ。どれだけ本気でやりたいかって親に伝えるしかねえだろ。…まあ明日、一真来ること祈ってるよ」
    「宙夢先輩、ありがとうございます…!」





    その日の夜。
    たまたま母さんが早く帰ってきた。


    「なんでまだ入部届け置きっぱなしにしてあるのよ。」
    母さんはそう言って机を叩いた。

    「なんでダメなんだよ。中学の時だって頑張ったじゃん。」
    「中学は中学。高校は3年間なんてあっという間。あなたの将来にかかわってるのよ」
    「そうだけどさ!!!…どうしても高校でもバスケやりたい。
    …俺は本気だから…。」

    そう言って部屋にあがった。

    やっぱ無理っぽいなー
    諦めるしかないか。ってなるけど
    意外とあきらめられねえな。

    冬樹の姉さん…早紀さんも大好きだったバスケを辞めてるしな。
    バイトしてるっぽいし。


    これじゃあ、桜高入った意味もねえな。











    次の日。朝1階へ降りると母さんはもう仕事に行っていた。

    テーブルの上には…

    署名してくれた入部届。
    そして置手紙まで。


    「…よっしゃ!!!!」
    俺はいそいでその紙とお金を鞄に入れ、学校へ向かった。









    「あれ、一真来てるってことは許可もらったんか?」
    浩紀にそう聞かれ、
    「うん。」
    とピースしながら答えた。

    …ありがとう、母さん。


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