(工藤洵太)



    恋は、もう自分にはできないんだろうか。








    「そーいやさ、洵太の恋バナ聞きたい」

    同じクラスの晃斗が聞いてきた。


    「あ、え、なんで…?」

    「この前みんなそれぞれ自分の恋バナしてるから、いなかった洵太の話を聞きたいなって」
    まあ、こいつらにはいつかは話そうとはしていた。

    「洵太って彼女いたことあるの?」
    宗吾が聞く。
    「こいつはあるよ。中2と中3の時」
    それに響が答える。当時は響にも世話んなったな。

    「いたことあるんだ…」
    意外そうな顔をした宗吾に響が言う。
    「宗吾、それを馬鹿にしたらいけない」
    「あ、はい、ごめん。なんか意外だったから」

    そりゃあまあ、意外って言われるよな。




    当時の彼女とは割と昔から喋る女の子で、小学生の時から仲良くて、相手の方から告白してきた。

    彼女は昔から響と同じ吹奏楽部でパーカッションをやっていて、とても楽器が大好きな子だった。楽器あまり詳しくない俺にもたくさん楽器の話をされていた。だから大抵は覚えたよね。


    「もう3年前ぐらいの話か、」
    俺がそう呟くと響も
    「ほんとさね。部が仲悪くなったのもそれ関連してたしな。洵太部活も違ったのに」
    と言う。

    「柊生がさ、先輩同士が仲悪くなったって言ってたんだけど、もしかしてその話関連するの?」
    晃斗が聞く。

    「うん…」












    中2の冬に告白されて付き合うことになった友梨とはけっこう仲良かった。互いの性格上喧嘩とかの面倒ごとは面倒臭いから喧嘩なんてしたことない。

    その中間地位にいる響には「お前らラブラブしすぎ」って呆れられるぐらいだけど。



    「洵太って、メガネ外したら美少年なの、知ってるからね」

    そう言って俺のメガネを外してくるのも少なくはなかった。当時は学校以外で会うときはなるべくメガネを外したり、コンタクトで学校行ってたりとかもあった。

    わりと互いにくっつき合ってて、二人でいる時はくっついてばっかりだった。さすがにこれは響とかの前でやったら「お前ら彼女いない俺への嫌味かよ」とか言われていた。



    でも、彼女ことを好きなのは俺だけじゃなかった。




    中学3年の夏、検定が終わり帰ろうとしたら、たまたま会った響に「パートリーダーの友梨いないと話進まんから友梨探すの手伝って」と言われ、探すとたまたま友梨が告白される現場に出くわした。
    少し盗み聞きしてしまい、その場から立ち去ろうとしたら見つかる。

    彼の名前は滝川直紀。俺の幼馴染みだ。


    「洵太〜友梨見つかった〜?」
    そんなのんきな響の声も聞こえる。

    「って、あ、…っと、ごめん」
    その状況に気づいた響は黙る。

    「…いいよな、洵太ばっかり恵まれてさ。」
    そう言って直紀は俺の胸ぐらを掴んだ。
    「どーいう意味」
    「なんでお前みたいな奴がなんで恵まれてんだって言いたいの。別に顔がいいわけでもないじゃん、」
    そこに今まで黙って聞いてた友梨が口を出す。
    「そんなこと言わないで!!!私が洵太に惚れてそれで…」
    「うるせーな!こいつメガネ外してもただのブスじゃん。それが何、お前は」
    「もう、無理」
    友梨はその場から逃げ出す。

    俺も、何も言えなくなった。
    たしかに、昔から何をしても俺の方が上だった。
    そりゃ嫉妬されてもおかしくない。
    別に、いつものことだし。

    「おい」
    響が直紀に向かってグーで殴る。

    「最悪だな、最低なやつだな。お前の言葉で傷ついてんのは1人じゃねえぞ?俺も正直友達のこと悪く言われていい気しねぇ。しかも洵太の幼馴染みであり俺の部活仲間。俺もお前のこと信用ならねえ。少しは頭冷やせよ」

    洵太、こいつのことはほっとけ、
    そう響は言って去っていった。

    その後に直紀は謝ってくる。
    「…ごめん、悪く言い過ぎた。今までの嫉妬が全部出てきた」
    「わかってる。気にすんな。俺も悪いから」




    それから彼女との距離は開いてしまった。
    その3週間後には、俺の方から別れを告げた。

    「ごめん、」
    自分で発した言葉に、自分で傷ついた。















    「なるほどな、」

    3人とも快く聞いてくれた。途中から何故か同じクラスの女子達も混ざってたけど。

    「こいつがメガネ外そうとしない理由もここにあるんだ。外したら何か失う気がして なんて言ってさ」
    響が言う。まあそんなことは前に言ったけど。


    「友梨って桜高ではモテるみたいだけど確か高校入ってからの告白全て断ってるみたい」
    横から詩菜も入ってくる。こいつも同じ中学の奴の1人。

    「恋愛に恐れてるのか、洵太のこと想ってるのか、どちらかだよね。あんたもいい彼女持ってたんだな〜」
    詩菜がそう言うと、響も続けて
    「こいつにしては、な。」
    と言う。



    高校生になってからちらほら見かけることもなくなった。連絡先持ってるだけで、特に何も連絡とかしてない。響がたまにパート会で会ってその話を聞く程度。

    「1度惚れた女って、本当に忘れられないんだよな。俺もそうだ。」
    「そっか、晃斗も…」
    「うん。でも俺は頻繁に会ってるけどね。付き合ってないだけで。洵太も会ってみたら?」

    い、いやいやいや。
    まさかそう来るとは。

    「いいんじゃない、友梨なら俺からでも連絡できるし」
    「いやまって、話が早い」
    「照れんなって。会いたいとか思ってんだろ本当は」

    と、言われれば何も言えなくなった。宗吾に「図星かよ」と言われて笑われたけど。




    「まあ、いつか、やり直せたらいいよな…」



    「なんかこいつほざきやがったし」
    「あれ、洵太のほうから振ったんじゃなかったっけ??」
    …響と詩菜はうるさいなぁ。



    やっぱり俺は 君にしか恋できないのかもしれない。


    君以外、誰1人好きになったことがない。





    
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