(福田結葉)




    始まりは、いつだろう。

    私が困っていると、助けてくれる。気さくに話しかけてくれる。笑顔が素敵な君に、恋をしている。

    ちゃんとした恋なんて何年ぶりだろう。中1の時ぐらいか。誘われたらついていく。その繰り返しだった、中学の時。なんでそれが楽しかったのだろう。あの人を見て実感する。

    彼は同じ部活。学科違うとはいえど、部活外でも会ったら話しかけてくれるし、ノリも好きだし、何だかんだ吹奏楽部の男子で一番親しいだろう。




    昼休み、食堂に行くと、泰輝に会う。

    「よっ、」
    と、頭を叩かれる。

    「泰輝かよ!!」
    私も泰輝を叩くが、吹奏楽部とは思えないくらい体はがっしりしていて、腕をつかまれるのもあっという間だった。

    泰輝の楽器はパーカッション。本人の話だと、小4の頃に空翔の誘いで始め、今年で9年目。この部活でも発言力と吹奏楽知識があり、そして実力もある。

    片想いしてからどれぐらい経つのだろう。
    かれこれ…1年は経ってるのではないか。

    「ねえー、パン奢ってー」
    と、購買の方を指さされる。
    「んなもん自分で買えよ〜!男だろ〜?!」
    「別にそこは男女関係ないだろ〜俺財布忘れたんだって〜」
    「私には関係ありませーん」

    そう言い放ってスタスタと自動販売機のところへ私は向かった。

    「相変わらず仲良いね〜、結葉たち」
    ずっと私の横にいた瑠華が言ってくる。
    「そう〜?」
    「好きなんでしょ?告らないの?って私、結葉にずっと言ってるけど」
    「や、そんな、そこまでは…うん。」
    「結葉が長い間片想い楽しんでるところを見るとは思わなかったよ…」

    たしかにそうだ。瑠華は何気に中学時代からの知り合いだ。たまたま高校のクラスが同じになって、二人とも最初は部活に入る気がなかったが、2人で一緒に入り、部活も同じ。

    昔なんて片想いの期間は短かったというか、ちゃんとした恋じゃなかった。告白なんてちゃんとしたことないしなぁ。いつもノリだったから。



    部活は今年は二年連続で支部大会に出場することができた。「レ・ミゼラブル」の代。
    西星の吹奏楽部は強豪校の一つで、人は少ないが、マーチングの全国大会の出場回数もこの辺では一番。座奏は近年から力を入れ始め、蓮希先輩部長の去年にようやく支部大会出場ができた。

    そして、この間の支部大会では、全国大会への切符を手に入れることができた。

    でも、あっという間だなぁと、近々実感する。
    何がって、皆と…君と…一緒にいれる時間が少なくなっていく、ということ。






    日曜日の部活、去年の3年生…蓮希先輩たち「ベルキス」の代の先輩が数人部活に遊びに来ていた。

    詩菜先輩、かえで先輩、美紅先輩、蓮希先輩、陸人先輩だ。

    部活の昼休み。私たちは近くの教室で、瑞菜や碧葉にののちゃんに男子5人といつものように弁当を食べていた。

    「やっほーい!」
    と、かえで先輩がやってきた。

    「先輩!!お久しぶりです!!」

    すると「はい 差し入れ!」と詩菜先輩からドーナツを頂いた。

    「みんな、何か進展ないの??恋愛とか!」
    と、私達は美紅先輩に聞かれる。

    「あ、たしか碧葉は惣平と付き合うことになったんだって?!晟一から聞いたよ」
    続けて美紅先輩は碧葉に言う。

    「はい…。」

    「柊もいい人だったと思うけどね〜。勿体無い」
    詩菜先輩は碧葉に向けて言った後、私の方を向く。

    「ってか結葉!ちょっと!」
    と言われて隅の方へ向かう。

    「結葉って、昔蓮希と関係持ってたんだって?!」

    小声でそう聞かれた。


    …なぜバレた。
    蓮希先輩のほうを向くと、「ごめん」という素振りが見えた。

    「なぜそれを…」
    「たまたま耳にしたから。蓮希に聞いても全然答えてくれないし」

    蓮希先輩からその話を出した訳ではなさそう。でも、なぜこの人が知っているのか。たまたまって、身内の誰かがバラしたのか。



    午後の練習はあまり気分が良くなかった。





    午後4時、部活が終わって帰ろうとすると、泰輝に

    「これからどっか行かね?」
    と言われる。

    「どっか…って?」
    「ついてきて!」

    そして、まっすぐ市街へ向かった。
    ついたのは、オシャレなカフェ…?

    イチゴのパンケーキをたのみ、泰輝は話し始めた。

    「ここ、俺のいとこの親がやってる店でさ。パンケーキがすんげーうまいんだ!結葉、元気なさそうだったから元気になってもらいたくてつい。」

    私は泰輝のその優しさに感動し、思わず涙が出た。自分のためにここまでやってくれる人がいるとは。

    「ど、どうした?嫌だったか?」
    「や、嬉しくて…。ありがとう、泰輝。」
    「いえいえ。…ところでさ、」

    急に真顔になる泰輝。

    「さっきの詩菜先輩との話…聞こえたんだけどさ…蓮希先輩となんかあったの?」

    やっぱり、その話だったか。
    私は中学時代に何があったかを全部説明した。好きな人だからこそ、隠したくない。隠しておきたくない。
    男に飢えてたあの時期に、蓮希先輩と数回身体を重ねたことに、色々と。

    泰輝も、中学時代の恋愛経験を話してくれた。

    「…俺、中学の時彼女できたことあって。浮気されたのをきっかけに、もう恋なんてしないって決めてたんだ。でもやっぱりしちゃうね、恋って」

    そして私の目を真っ直ぐ見る。

    「結葉が好きです。」

    私は嬉しさのあまり再び泣き出した。

    「おい、だからなんで泣いてんの」
    「…嬉しくて。私だって、いつのまにか好きになってたし。」
    「じゃあ、両想い?!やったね!」

    子供みたいに喜ぶ泰輝。とてもかわいい。

    「最初はまあ、吹奏楽部の中では大人っぽくてかわいいなと思ってた。でも関わってみると子供みたいだったり、可愛いところに魅力を感じたよね。そしたらいつの間にか結葉に惚れてた。」

    照れながら言ってくれた。

    「私だって…。困ってたら助けてくれたり、いつも気さくに話しかけてくれたり、そして優しいところに…。」

    なんて言うだけで恥ずかしい。泰輝はよく言えたよな、なんて思う。

    帰りは手を繋いで、歩いて送ってくれた。
    家は逆方向なのに、そんなのもお構い無しに。





    他愛のない話。いつもと変わらない。


    変わったことは、泰輝が彼氏になったこと。

    やっぱり私、この人に惚れて良かった。
    スポンサードリンク


    この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
    コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
    また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。