(森田惣平)


    俺ってなんで商業科にきたんだっけ。
    時々わからなくなる。

    バスケ部の部活推薦。入る学科はと聞かれるが特進科行くほどの怜みたいな頭はない。普通科はピンと来ない。なんか嫌だった。工業科は荒れてるって評判だったから却下。英語できないから国際科は無理。

    って考えたら商業科しかなかったし、両親は東商出身だし、商業科を選んだんだっけ。女子ばかりなのはわかっていたけど結構楽しいし、何よりも想い人もできて内心はすごい充実してると思う。商業科に来なかったら今の自分はいなかった。まず、恋愛できたっていう面で。


    「惣平、また今回も商業科学年トップかよ、すげえ」
    同じクラスの響哉に言われる。響哉も学年3位だからたいした変わらない成績だけどな。

    「すごくねーよ、英語満点のお前がすげえわ」
    「英語だけはできるんだよ。」
    「俺は英語ができないんだよ」
    「まー俺は桜国際のビジネス科受けるから。惣平は商大進学だっけ。」
    「うん。商大受ける。中学のバスケ部のやつもそこ受けるっぽいし、そいつの親もそこで教授やってるぽいし」
    「ほー、すげー」


    中学のバスケ部のやつって桜高の3年の宙夢のこと。インターハイで桜高に負けたものの選抜秋季大会で桜高と西星が選抜されて、互いに一回戦勝てば試合のチャンスはある。宙夢は同じ南聖中でキャプテンやってたやつ。あいつ最初は東商受けるとか言っててその頭もあったんだけど部活で桜高選んだんだっけ。商業コースもあるしとか言って。





    休み時間。

    「さっき響哉との会話きこえたけど、惣平って商大目指すの?」
    同じクラスの碧葉に聞かれた。俺の想い人とは碧葉のこと。

    「うん。桜商大。お前は就職だっけ」
    「そー!進学する脳はないから」
    「学年で下から7番目のやつが進学できるわけ」
    「は、お前いっぺん黙れ」
    「本当のこといっただけですー」
    「くっ…」

    碧葉は可愛いし吹奏楽部で上手いのに成績はほんと下だからな。何回か勉強教えてやってんだけどあんまり点数変わってねえんだよな。でも、そんな彼女が好き。

    多分こいつがいなかったら商業科に来て良かったなんて思わなかった。でもそれは内心で、誰にも話せていないから言葉に出すことはない。…はずだった。







    俺が進路関係で放課後残されて、そのあと。部活行こうとして教室に荷物を取りに行ったらたまたま俺らの教室に吹奏楽部の3年が集まっていた。

    最初は響哉に「おー、惣平か!」と呼ばれたが笑って返す。

    「あ、これが噂の惣平くん」
    響哉の横にいた…たしか、普通科の和泉さん。がそういった。

    「噂のってなに、俺噂になってんの?」
    「あ、これが鈍感ってやつ。」
    「は、てめえ碧葉」
    「いたたたた。いやー、あのね、吹奏楽部や普通科の1年の中で噂になってるんだって、惣平が」
    「俺が??」

    はじめて聞いた。てか知らんかった。
    俺そんな噂になるようなことしたっけ

    「よー、商業科のイケメンじゃん。気づけよ自分のことぐらい」
    「ずっと思ってたけどさー、森田って碧葉とかなり仲良さそうだけどもしかして…」
    「だまれ井上」

    同じ中学だった工業科の快人と普通科の井上が続けて言う。思わずだまれと言葉が出たのは気にしない。うん。
    快人の言ってることにはまあスルーしといてそんな仲良さそうにしてる…か。

    とりあえずこの場にはいずらいので早く退散。商業科以外のノリはよくわからん。この瞬間でも商業科でよかったなとか思えてくるんだけど。






    次の日、土曜日の午後。

    「今暇~?」とか碧葉からメッセージが来た。暇だよ、と返すと「じゃあ惣平んち、いくわー。簿記教えてー」とか送ってきやがった。

    別に俺は問題ないけど気軽に男の家に行こうとするあいつもどうかしてるわ。


    「これ当期純利益が合ってないし。どこで計算ミスしたのかよ」
    「…どこー」
    「お前馬鹿かよ。ちゃんと見ろよ。受取利息は34,000円。なんで84,000円になってるかな」
    「あ、ほんとだ、見間違えてた。凡ミスだったただの」
    「凡ミスにもほどがあるな。これ1年でもできるけど?お前はもう進路決まった3年だろーが」
    「いやこれは凡ミスで済ませとく。もう検定とっても意味ないのに勉強する意味ね~」
    「それは思うけど復習しろ復習」
    「はぁーい」

    普通に簿記教えてるけどこいつの脳どうなってんだよ。勉強もそうだけどここ男の部屋だって気づけよ。いい加減我慢できなくなるから。…っていうのは抑えておく。付き合ってもないのに。


    さすがにこのままだと俺がもたないから響哉と玲来を呼んだ。


    「えーなに、2人っきりだったのに私ら呼んだのかーい」
    「別にいーだろ。元々碧葉から来やがったんだし」
    「やるね~碧葉も。」
    「玲来うるさいな。いいじゃん!今日部活朝だけだったから暇だったんだし」
    「暇だからって俺が相手してやる暇なんて本当はないんだよ」
    「なのにちゃっかり碧葉を家にいれる惣平も惣平だろ」
    「響哉もだまっとけ」



    勉強してお菓子食べて喋って、この日は解散。俺も暇だから走りにでも行こうかなって思ったら碧葉が忘れ物を取りに来た。

    「携帯忘れた!!」
    「お前馬鹿か」
    「あーもう響哉たちいっちゃったよねー。玲来は佳奈穂の家行ってから帰るっていってたし」
    「多分響哉はもう行った。結局は2人かよー。はよ帰れ帰れ」
    「言われなくても帰りますよーだ」

    碧葉は反対方向を向いて進んだ。




    「…待て!」
    「え…?」

    碧葉が振り返ったと同時に抱きしめた。
    本当に一瞬。


    「…惣平…?」
    「なんでもねーよ、ごめん、取り乱した。じゃあね」
    「え。うん、じゃあね」

    同じクラスでいれるのはあと半年と2ヶ月。いつ、言えるのかな。
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